SCENE3 医師や他部門とうまくやるには? 交渉上手はチーム医療の要

 セクショナリズムの塊である病院では、他部門との交渉が一番難しいともいわれている。事務部から看護部に依頼してくることは、お金のことばかり。薬剤部からの依頼は、細かい話が多い。そんなイメージがある。また、あの先生は「外科系だから」「内科系だから」といったことがあるように各職種によりさまざまな特徴がある。病院内の交渉は、どの部門にとっても課題である。

 鈴本師長が、事務部とトラブルを起こした。いつも温和な石崎もかんかんのようだ。理由を聞いたら、鈴本師長が管理に関係ある統計をだしてもらいに行ったところ、事務のレセプト業務の忙しい最中に、すぐに提出しろと命令したようだ。明日では、だめでしょうかと事務員が言ったが、鈴本師長が聞いてくれなかったため、トラブルとなったようだ。

奈須:石崎くん、鈴本師長と喧嘩したんだって?

石崎:喧嘩はしてません。それにしても、鈴本師長はこちらのことは何も考えずに依頼するね。

奈須:原因は、何だったの?

石崎:ここだけの話だけど、鈴本師長の病棟は平均在院日数が長くなっているので、1カ月間の入院患者のプロフィールを毎月出しているんだ。今月は、いつもより請求されることが早かったので、事務でも用意ができていなかったんだよ。それで、少し待ってほしいと事務員が頼んだけど、すぐに出すように事務室で怒り出したんだ。それで、なぜそんなに早く必要なのか聞いたら、明日から旅行で数日いないので、それまでに欲しかったという理由だったから呆れてしまったよ。結局、鈴本師長が旅行から帰るまでに用意しておくということで治まったけど、正直困った。

奈須:病院って、さまざまな部門や職種がいるからセクショナリズムが強くて、うまくいかないね。でも、根田師長は、他の部門と交渉するのがうまいけど、何か秘訣があるのかな。

石崎:やっぱり、相手のことを知るってことかな。

奈須:相手を知るって?

石崎:病院での交渉は、その職種の文化と背景を知ることだよ。医師と看護師の考え方が違うのも文化の違いだよ。医師はヒポクラテス、看護師はナイチンゲールに源流があるよね。患者さんを早く治そうという気持ちは一緒でも、医師と看護師はアプローチが違うはずだよ。ある意味、病院内は異文化コミュニケーションだからね。医師は患者さんの治療のためには何でもする。手術なんかはその典型例だよね。生命を脅かす病気というリスクを取り除き、健康というリターンを得る。そのためには、手術という信州的な医療行為を行う。

 一方、看護師は病棟で患者さんが自然治癒力が最大限になるようにし、治療が有効に行われるようにする。薬剤師は薬のエキスパートとして薬物治療の効果が最大限になるように、患者さんや医療従事者に情報提供を行うんだ。事務は、病院の各部門や医療従事者の潤滑油であり、病院の採算が合うようにするのが仕事だよ。本当は、医師や看護師が好きなことをやっていても、われわれ事務が採算を何とか合わせますと言いたいんだけどね。

奈須:そういえばそうね。相手を思いやることで、相手の大切にしているものがわかるから、お互いに尊重することができるのね。交渉の基本は、win-winという言葉を聞いたことがあるけど、相手の大切にしているものを尊重することと特徴を理解していればいい、ということなのね。

石崎:そうだよ。だから、レセプトの手を止めてもすぐに使わない資料をすぐに出せと言われれば困るよね。交渉の基本は、お互いに喜ぶことを提案することだよ。

奈須:なるほどね。例えば、事務であればどのように依頼すれば喜ぶのかな?

石崎:人によって少し違うけど、事務への依頼は、レセプト期間を除いて依頼する。医事課の場合、レセプトコンピュータの中で管理しているデータであれば、データを出すことを嫌がらないと思うよ。患者の状態といったことでは、診療情報管理室へ依頼するといいと思う。事務であれば、事務としての専門性を褒めてあげると喜ぶね。事務ってあまり評価されることないから、医療従事者として扱ってあげるとすごく喜ぶよ。事務って、国家資格ではないから医療専門職に憧れがあるんだよね。

―ちょうどそこへ、薬剤部の岡田が通りかかる。

奈須:岡田さん、薬剤師ってどんな時に、薬剤師をやっていてよかったと思う?

岡田:そうだな。患者さんから薬の相談をした時や、医師から薬のことで助かったよと言われた時かな。

奈須:看護師からはないのですか?

岡田:患者さんの薬について相談された時はうれしいよ。看護師が医師に相談する前に薬剤師に相談してもらえるということは、薬剤師にとって光栄なことだね。

奈須:薬剤のプロとしても認められるということなのですね。

岡田:そういうことだね。われわれは、病院の中で一番、薬剤を知っていると自負しているし、そうでないといけないからね。

奈須:なるほど。こういった特徴を押さえて、交渉すればいいのね。

石崎:そうだよ。これから心がけると、今後は交渉がうまくいくよ。

 病院内の部門間の交渉については、相手のことを思いやり依頼することが理想です。しかし、医療現場では余裕のない場合もあり、丁寧に説明することが難しく、誤解を招く場合もあります。病院のためや患者さんのために依頼した仕事でも、誤解されては元も子もありません。そんなことがないようにするために、各部門や各医療従事者の文化や特徴を知っている必要があります。知っていれば、必然と交渉相手の行動がわかります。